はじめに:なぜ “プレゼン” は日本人にとって難しいの?
私がアメリカに駐在していた頃、息子が通っていた現地の幼稚園で印象的な出来事がありました。
アメリカでは「Show & Tell(ショー・アンド・テル)」という授業があり、毎日子どもたちが順番に、自分の好きな物や特技をクラスで発表します。いわば “プレゼンテーションの練習” です。

ある日、息子は家から小さなバイオリンを持って行き、クラスできらきら星を披露しました。演奏は拙いものでしたが、子どもたちは静かに耳を傾け、発表が終わるとしっかり拍手をしてくれました。その後、息子は「My violin is very small, and I practice every day.」と自分の言葉で堂々と説明し、他の子どもたちも自然に「Cool!」「Awesome!」などと反応していました。
こうした経験を通じて、人前で話すことや自分の考えを伝えることへの抵抗感が少ない土壌が、アメリカの教育環境には根付いているのだと感じました。
一方、日本では「人前で話すこと」そのものにプレッシャーを感じる人が多く、まして英語でとなると、「間違ったらどうしよう」「発音が悪いと恥ずかしい」と、不安が先に立ってしまいがちです。
ですが、実は英語プレゼンで最も大切なのは「英語力」ではありません。
本当に求められるのは、伝えるための「構成力」と「準備力」です。今回は、英語が得意でなくても堂々とプレゼンできるための5つのコツをご紹介します。
コツ①:英語力より“構成力”が大事
英語プレゼンで最も重要なのは、流暢に話すことではなく「伝わる構造」をつくることです。
プレゼンにはいくつかの基本的な構成パターンがあります。たとえば「PREP法(Point, Reason, Example, Point)」や「Problem → Solution → Benefit」など。これらは英語でも日本語でも通用する、論理的な説明手法です。
「何を伝えたいのか?」を明確にし、それを聞き手が理解しやすい順番で展開する。この構成さえしっかりしていれば、多少英語が拙くても内容は確実に伝わります。
コツ②:スライドは“読ませない・見せるだけ”
英語プレゼンにおけるスライド作成で意識すべきなのは、「情報を詰め込みすぎないこと」です。
1スライドに1メッセージ。文字数は最小限に抑え、できるだけビジュアルや図を使って補足します。スライドは話の補助であって、プレゼンの主役ではありません。
聞き手はスライドを読むために来ているのではなく、話を聞きに来ているのです。スライドを読み上げるだけのプレゼンでは、伝えたい内容も印象も薄れてしまいます。
コツ③:手元台本は“完全英語”で書かない
プレゼンの準備において、私はいつも以下のようなステップで台本を作成しています。
- まず日本語でプレゼンの構成と内容を台本化する
- それをもとに、全文を自分で英語に書き換える
- 英語スクリプトを何度も声に出して読み込み、話す内容を身体に馴染ませる
- 本番用に、キーワードだけを記した「手元ペーパー(日本語)」を作成する
ここで大切なのは、英語化の作業は必ず自分で行うことです。翻訳ソフトや他人に頼ると、自分のボキャブラリーや文法範囲から外れた表現になりがちです。その結果、内容が頭に入らず、プレゼン中にスムーズに伝えられなくなります。
自分が使い慣れた語彙と文法で表現することで、自然な流れで話すことができます。英語が完璧でなくても、自分の言葉で話すことが最も伝わるプレゼンになります。
そして「手元ペーパー」は、文章を書かず、キーワードのみで構成します。目に入ったキーワードから次の展開を思い出せるようにするのがポイントです。
さらに、できるだけ「練習で使ったその紙」をそのまま本番でも使ってください。紙のどの位置にどのキーワードがあるかが身体に染み込んでいる状態なら、次の話題を思い出すときにも自然に目線が動きます。
私はよく、同じ紙台本を左手で持ち繰り返し練習していたため、ペーパーの左下が手の形に曲がっていました。それくらい使い込んだ紙を本番に持ち込むことで、プレゼンに安心感が生まれます。
コツ④:英語よりも“姿勢と目線”が印象を決める
プレゼンの印象を大きく左右するのは、「英語の流暢さ」ではなく、「話し手としての姿勢と態度」です。
胸を張って立ち、目線を聞き手にしっかりと向け、表情を柔らかく保つ──これだけで、英語に不安があっても堂々とした印象を与えることができます。
手の使い方や身体の動きは、文化を超えて伝わる非言語のメッセージです。プレゼン中に多少言い間違えても、表情や動きから「伝えたい気持ち」が伝わることはよくあります。
私の場合、準備が進み、内容がしっかり頭に入ってくると、不思議なことに自信が湧いてきて、本番前には「この内容をみんなに伝えたくて待ちきれない」とワクワクするようになります。
また、ある時「オーディエンスを動物だと思え」というアドバイスをもらったことがありました(かぼちゃだったかもしれません🤣)。それだけで緊張が少し和らぎました。
プレゼンでは、「自分が一番この内容を理解していて、それを伝える立場だ」という自信を持つことが、最終的に最も伝わる姿勢につながります。
コツ⑤:練習環境は “本番仕様” で作る
練習環境の作り方ひとつで、プレゼンの完成度は大きく変わります。
まず、自分のプレゼンを録画して確認することをおすすめします。声のトーン、話すスピード、姿勢、目線、手の動き──客観的に見直すことで、多くの気づきがあります。そして、修正したら再録画して改善。この繰り返しが非常に効果的です。
また、リハーサルの相手としては、英語ネイティブよりも非ネイティブの友人や同僚が適しています。彼らは「伝わる英語」への感度が高く、実際のグローバルなビジネス環境でも、非ネイティブ同士のコミュニケーションは多いからです。
スクリプトの見直しには、ChatGPTのようなAIツールを使って「自然な英語に直して」と添削を依頼するのも効果的です。
そして何より大切なのが、「リハーサルは本番」だという意識です。
私が若い頃、創業者から教わった言葉があります。
「リハーサルは本番と思ってやれ。本番だけ本気出そうと思うな」
私は今でもこれを守っています。本番と同じ服装、同じ時間帯、同じ機材でリハーサルを行います。服装を変えるだけでも緊張感が変わってしまうため、本番用の服を着て練習することすら徹底してきました。
当時は、創業者や社長の前でリハーサルを行い、何度も厳しいダメ出しを受けました。
「それじゃ伝わらない」
「君はこの製品の本当の価値を分かっているのか?」
「比較例が足りない。データが少ないから説得力が弱い」
怒られて、落ち込んで、それでも何度も修正して、最終的にプレゼンは “磨き上げられた” ものになっていきました。
本番で自信を持って話せるのは、その裏側に「限界まで準備した」という確信があるからです。
おわりに:最初の成功体験が、次の自信に変わる
英語プレゼンにおいて、英語力は確かに武器になります。
でも、それがすべてではありません。むしろ、一番大事なのは“内容の良し悪し”です。
どれだけ完璧な英語を使っても、伝えるべき中身が弱ければ、聞き手の心には残りません。逆に、多少英語が拙くても、話す内容に説得力があれば、聞き手は耳を傾けてくれます。
「プレゼン、すごく良かったよ。英語じゃなくて、内容がすごく印象に残った」
そう言ってもらえたら、あなたの勝ちです。
どんなプレゼンでも、あなたの言葉で、自信を持って伝えてください。伝えるべき“中身”がある限り、それは必ず聞き手に届きます。
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