翻訳したのに伝わらない理由とは?|日本企業の海外展開に必要な「意味設計」とは

コミュニケーション

海外展開で、こんなことは起きていませんか?

  • 会議では合意したのに、なかなか実行されない
  • 本社と現場で距離を置かれる気がする
  • 伝わっている様子なのに、信頼が積み上がってる感じがしない

海外展開を始めようとしている、あるいは始めたばかりの中小企業の経営者から、よくこんな声を聞きます。

英語サイトも作った。
パンフレットも翻訳した。
現地パートナーとも英語で会議している。

それなのに、なぜか噛み合わない。
なぜか温度差がある。
思った様に前に進まない。

「ちゃんと英語で翻訳し、会話しているのに、なぜスムーズに伝わらないのか。」

その違和感は、決して気のせいではありません。
そしてこれは単なる語学の問題ではありません。

放置すれば、信頼構築の遅れ、意思決定の停滞、さらには業績にも影響する問題です。

結論から言えば、多くの企業は“翻訳”をしていても、“意味の設計”をしていないのです。

翻訳・ローカライズ・文化翻訳の違い(なぜ海外でズレるのか)

私はこの問題を三段階で整理しています。

  • 翻訳 = 言語変換
  • ローカライズ = 文脈変換
  • 文化翻訳 = 意味の再設計

多くの企業が行っているのは最初の「言語変換」です。

日本語で考えた内容を英語に翻訳して置き換える。
文法を確認し、正確な表現に整える。

しかし、グローバルで本当に問われているのは「意味」です。

その言葉は、どの前提で受け取られるのか。
どのような関係性の上で話をしているのか。
どのような意思決定構造を前提にしているのか。

ここまで設計できている企業は、実は多くありません。

『本社の方針としては』が海外で誤解される理由

日本企業でよく使われる表現に、

「本社の方針は、・・・・」

があります。

日本では自然です。組織としての責任を示し、統一感を担保する言葉です。

これを英語にすると、

Headquarters has decided that…
The direction of the Headquarters is...

文法的には正しい表現です。
しかし海外では、こう受け取られる可能性があります。

「すでに決まっている」
「議論の余地はない」
「トップダウン命令だ」

日本では、組織の各部門が同じ方向を向くんだ、と“安心”を生む言葉が、海外では逆転して“距離”を生む言葉になります。
ここに意味のズレがあります。

例えば、

From a global perspective, the direction we’re looking at is…
To ensure consistency across markets, we are recommending…
We’re proposing the following direction based on our global strategy.

このように言い換えると、「決定」から「提案」に変わります。
一方通行から、共通方向の提示に変わります。

変えているのは単語ではありません。
変えているのは「関係性の設計」です。

もちろん、あえて議論を封じるために前者を使う戦略もあります。
しかしそれは短期的統制を優先する選択です。

長期的なパートナーシップを築くのか。
短期的な統制を取るのか。

そこには経営判断があります。

『検討します(We will consider it)』が海外で誤解される理由

We will consider it.

日本では配慮の言葉です。
関係性を守るための緩衝材です。

しかし海外では曖昧に映ります。
具体的行動が示されない限り、事実上のNoと受け取られることもあります。

Let’s revisit this with more data next week.

こう言えば、検討の意思と次の行動が明示されます。

ここで設計しているのは単語ではなく、
「意思決定の透明性」です。

私は以前、上司から指摘を受けたことがあります。

I understand.

私は「理解した」という意味で使っていました。
しかし相手は「賛成はしていない」と受け取っていたのです。

I understand and agree with you.

この一文を加えるだけで、意味は変わります。

これは英語力の問題ではありません。
前提の問題です。

なぜ日本企業の海外展開で“意味設計”が欠けるのか

お分かりの通り、この問題は言語能力の不足ではありません。
社会構造の違いに起因しています。

日本社会は関係性前提の社会です。
空気を共有し、暗黙知を前提に話します。
👉構造差については、以前の記事「沈黙の文化 vs 対話の文化」でも詳しく書いています。

一方で多くの海外市場は、役割前提・契約前提の社会です。
明示された言葉だけが前提になります。

日本は「共有されている意味」で動く社会。
グローバルは「明示された言葉」で動く社会。

この構造差を理解せずに翻訳だけを行ってしまうと、言葉は正しくても意味は届きません。

海外展開に必要なのは“意味の設計”である

ここで問いかけたいのです。

  • この英語資料は「誰」が読む前提で設計しましたか?
  • 相手が前提としている意思決定プロセスを想定していますか?
  • こちらの意図(提案なのか決定なのか)は明示されていますか?
  • 相手が次に動ける“具体”が書かれていますか?

海外展開とは販路拡大のみではありません。
意味の再構築です。
👉これはブランドの再定義そのものでもあります(関連記事:ブランドとマーケティングの違い)。

社内で通用している言葉が、社外で通用するとは限りません。

この事実に向き合ったとき、初めてグローバル経営は始まります。

AI翻訳の精度は今後さらに上がります。
言語変換は自動化されるでしょう。

しかし、「意味の設計」は自動化できません。

グローバル経営とは、製品を売ることではありません。
意味を設計し、前提を共有し、関係性を構築することです。

翻訳とは、言葉を変えることではなく、意味を再設計し、経営の前提を整えることです。

もし海外との対話に違和感があるなら、それは英語力ではなく設計の問題かもしれません。

そこに目を向けることが、中小企業がグローバルで持続的に戦うための第一歩だと、私は考えています。

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