アメリカのビジネス現場で仕事をしていると、肩書き(Job Title)へのこだわりの強さを感じる場面がよくあります。
自己紹介の際には、名前とともに「自分は何を担っているのか」を明確に伝えるのが一般的です。
名刺交換そのものはあまり行われない文化ですが、ポジションを通じて責任範囲を伝えるスタイルが自然に根付いています。
一方、日本では「いの一番に名刺交換」がビジネスのスタートラインであり、「どこの会社に所属しているか」、さらに「どの部署か」という所属意識が重視される傾向が強いと感じます。
最近では日本企業でも、「代表取締役社長」ではなくCEOと呼ぶケースが増え、またCFO(最高財務責任者)、CMO(最高マーケティング責任者)といったCXOタイトルが浸透しつつあるなど、肩書きへの意識にも徐々に変化が見られるようになってきました。
この記事では、私自身の実体験をもとに、アメリカと日本のJob Titleに対する文化的背景の違いを紐解いていきます。
アメリカ社会におけるJob Titleの役割
キャリアは「自己ブランド」、Job Titleはその証明
アメリカでは、個人が自らのキャリアを市場に向けて発信し続けることが求められます。
転職が一般的な社会では、履歴書(Résumé)やLinkedInのプロフィールで「どんなポジションを歴任してきたか」が、その人の実力を測る重要な情報源となります。
Job Titleは単なる名札ではなく、自己ブランド力を象徴する武器。
「Director」「Vice President」「Head of ~」などのタイトルが、実績や期待されるレベルを一目で伝えます。
組織のヒエラルキーを明示する機能
ビジネスにおいては、「誰がどこまで意思決定できるか」が非常に重要です。
Job Titleはその目安のひとつです。たとえば多くのケースで、「Manager」はチーム管理レベル、「Director」は予算管理や戦略策定まで関与するポジションと推測されます。
(もちろん、組織や業界によって多少の違いはあります。)
「転職社会」における価値(=給与)の可視化
アメリカでは、「どの企業に勤めたか」よりも、「どんな役割で、どんな成果を出したか」が重視されている様に感じられます。
タイトルと給与・待遇は直結していることがほとんどという印象です。

部下から「Job Titleを見直して欲しい」という申し出は頻繁にあります。あまり馴染みのなかった頃に簡単に承諾してた時がありました。が、その時はまだ 『Job Title変更』 → 『給与水準の変更』(要するにサラリー増)に直結していくという認識が甘く、各方面に迷惑をかけてしまったことがあります😭
そしてより価値の高いJob Titleは現在の社内においても、また次の会社へ転職していく際にも大変有利に働きます。若くして「Director」や「VP」に就任し、年収アップに直結する例も珍しくありません。
日本との比較:なぜ日本ではJob Titleをそこまで重視しないのか?
日本では、長らく終身雇用と年功序列が基本文化とされてきました。
会社に入る=その組織の一員として長期的にキャリアを積む、という前提があり、個人の役職よりも、「どこの会社の人か」「何年目か」が重視される傾向がありました。
日本では「就職」ではなく「就社」だ、という言われ方がされるのも、こうした文化を象徴しています。
もっとも、近年では終身雇用の崩壊、副業解禁、実力主義化など、キャリア観は大きく変わりつつあります。それでもなお、組織の中での「所属」や「協調性」を重んじる文化は、アメリカと比べて根強く残っています。
現代アメリカにおけるJob Titleの進化
スタートアップ文化とタイトル多様化の波
ここ数年、スタートアップを中心に、伝統的な肩書きにとらわれないユニークなタイトルが急増しています。
- Head of Growth(成長責任者)
└例:Dropboxがこのポジションを設置し、急成長をドライブ - Chief Happiness Officer(従業員幸福責任者)
└例:Zapposが導入し、従業員満足度向上に注力 - VP of Customer Success(顧客成功部門VP)
└例:SalesforceがCustomer Successを重視し、役員レベルで担当配置 - Chief Evangelist(ブランド伝道師)
└例:Guy KawasakiがAppleで初代Chief Evangelistを務めたことが有名
こうした柔軟なタイトル設計は、企業のバリューやミッションをより強く発信するための一手でもあります。
LinkedInで進む「タイトル演出」の流れ
リモートワーク時代に入り、LinkedIn上では個人の肩書きに工夫を凝らす傾向が強まりました。
「Global Head of ~」「Chief Storyteller」など、インパクトのあるタイトル設計を行うことで、ヘッドハンターや外部ネットワークにアピールしやすくなるためです。

もちろん、タイトルが実態とかけ離れると逆効果になり得ますが、自己ブランディングの一環としてタイトルを戦略的に設計する姿勢が一般化しつつあります。
【体験談】LinkedInで見かけた「盛りタイトル」
ある米国マーケターと接点を持った際、実際の役割はマーケティングマネージャーでしたが、LinkedIn上では「Global Head of Digital Experience」と表記していました。
驚きつつ話を聞くと、「その方がポジションの幅が広がり、声をかけられる機会も増える」と、ごく自然に語っていました。
肩書きもまた、マーケットに対する自己プロデュース戦略の一部だということを実感したエピソードです。
異文化環境での注意点
Job Titleを尊重することは相手の努力を尊重すること
アメリカでは、Job Titleは単なるラベルではなく、その人が築き上げた実績と信用の象徴です。
無意識のうちに軽視すると、相手に対するリスペクトを損なうリスクもあります。
自己紹介・メール署名でのTitle活用
グローバルなビジネス環境では、自己紹介時に名前とともに肩書きを明示することが基本です。
また、メール署名でも役職を記載し、自分の責任範囲をわかりやすく示すことが求められます。
まとめ ― 文化の違いを尊重しながら、自分自身もTitleを活かす
アメリカでは、Job Titleは個人のキャリアブランドを表す重要な要素です。
日本企業でもこの流れは徐々に浸透しつつあり、今後さらに進むと考えられます。
重要なのは、文化の違いを理解しリスペクトした上で、自分自身のTitle設計も戦略的に捉えることです。
なお、今回扱った「Job Title」と密接に関連するテーマとして、次回は「Job Description(職務記述書)の重要性」について掘り下げたいと思います。
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