初めて欧米人の部下を持った時、多くの日本人リーダーは戸惑います。
「こうすればいい」「察してくれるだろう」と思っていたことが通じない。意見を求めても反応が薄く、部下との間に距離があるように感じる——そんな経験はありませんか?
その背景には、文化の違いと、「なぜ?」を共有する習慣の有無があります。
日本では“理由を聞くのは失礼”とされがちですが、グローバル環境では “Why?” の共有こそが信頼の土台になります。
本記事では、日本人が端折り(はしょり)がちな「なぜ?を伝える」ことの重要性を、実体験とともに掘り下げていきます。
なぜ、「なぜ?」が必要なのか?〜Because文化の正体〜
私たちは英語の授業で、「Why?」と聞かれたら、その返事として「Because〜」と答える、と習ってきました。
しかし、実際のグローバルビジネスの現場では、聞かれてから説明するのではなく、自発的に背景を話すが基本です。たとえば、
“Could you please prepare this report because it will be presented to the CEO.”
・・・のように、理由はセットで話すもの。聞かれる前に“Because”が出てくるのが当たり前なのです。
一方、日本では
- 「いいからとにかくやって」
- 「とりあえずこれお願い」
・・・が日常的(そういった態度はかなり減少傾向かもしれませんが・・・)に使われていますが、これは海外の部下には全く通じません。
“理由を聞かない”文化は、信頼を築くうえで圧倒的に不利なのです。
透明性(Transparency):情報の背景を隠さない
透明性とは、決定の背景、期待値、プロセスを明示し、隠しごとをなくすことです。
「これはまだ未定です」「ここまでは確定しています」と進捗段階も含めてオープンに共有することで、部下は「チームの一員として貢献している」「信じてついていける」と感じます。
よくある現場の例:
- 年度方針がまだ確定せず、現地チームが不安な様子
- 「まだ本社と協議中だが、現時点での方向性はこうだ」などのリアルな現状を部下と共有して安心感を醸成。
- 役割分担が曖昧で混乱が発生
- 事前に「このフェーズでは日本チームがリード、次はUSが担当」と共有しておくことで責任範囲の透明性を高めるとプロセスを円滑化。
- 評価基準が見えないために部下が納得感を持てない
- 1on1で「何を重視しているか」「期待値」を明文化して伝えたことで、目指すゴールの透明性を高めることでパフォーマンス向上。
心理的安全性も、「なぜ?」の共有でつくられる
心理的安全性(Psychological Safety)は、安心して意見を言える、間違えても責められないと感じられる状態です。
これは“優しく接する”ことではなく、「このチームは、何をどう判断するのか」がクリアであることから生まれます。
つまり、「この行動にはこういう理由がある」「こういう基準で見ている」という Whyの共有 が、安心感を支えているのです。
大反省!「なぜ反対なのか」を伝えなかった結果・・・
以前、アメリカ人メンバーから新しいプロモーション企画の提案を受けたことがありました。
熱量の高いメンバーで、ロジックの筋も通っていたのですが、私の過去の経験から見て日本市場ではうまくいかないだろうと直感的にわかりました。
その時、私はただ一言、「ちょっと違うと思う」とだけ伝えました。
当然浅はかな判断だったと、今ならわかります。が、当時はそれで伝わると思っていたのです。
- そこまで言わなくても、ビジネスパーソンなら察するだろう
- いちいち細かく説明したら、逆に子供扱いしているようで失礼かもしれない
- 日本ではこのやり方がうまくいかないのは“肌感覚”としてわかってるから、わざわざ理由は言わないほうがいいだろう
でも、彼にとっては違いました。後から聞いた話では、「自分のアイデアを頭ごなし(理由もなく)に否定された」と受け止め、以降少し我々の間でギクシャクしてしまいました。(私はそれすら感じておらず、あとから別の同僚に聞かされました)
あのとき、「なぜそう考えるのか」「なぜリスクがあると感じたのか」を共有していれば、彼は納得してくれたかもしれない。あるいは別の議論に繋がってより建設的な結果に発展したかもしれない。
意見の違いはあって当然。でも、理由の共有があるかないか(Whyの有無)で、信頼の行方は全く変わってくる。沈黙ではなく、“なぜ”を語ることで、チームに敬意を示せることを、痛感した出来事でした。
まとめ:「言わんでもわかる」は、日本人の強さであり、弱点でもある
日本社会は、“行間を読む文化”の上に成り立っています。
- 説明しなくても察してくれる
- 言葉にせずとも分かり合える
・・・・これは、ある意味、日本文化の本当に凄いことです。
だからこそ、私たちは「そんなこと、いちいち言わなくても分かるだろう」という無意識の前提を持っています。
でも、残念ながらそれはグローバルビジネスでは全く通用しない。
むしろ我々の素晴らしい文化は、グローバルの信頼を築く上で最大のリスクにもなり得ます。
相手が納得できるように、背景を説明すること。
判断の理由、期待の意図、方針の意味——“Because”を使って伝える姿勢こそが、信頼を築く言語になるのです。
沈黙で示すのではなく、言葉で伝える。その一歩が、あなたを“グローバルに信頼されるリーダー”へと導いてくれるはずです。
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