「ブランド=ロゴや贅沢品」という思い込みを越えて
「ブランド」と聞いて、最初に思い浮かぶのは何でしょうか。
– 企業ロゴやマーク
– セレブの登場するおしゃれな広告
– なかなか手がでない高級品や贅沢品
こうしたイメージを持つ方が多いのではないかと思います。
一方で、海外の現場で語られる「ブランド」は、もっと実務的で戦略的な概念です。それは「顧客があなたを選ぶ理由」であり、「信頼の残高」のようなものと言われたりします。
私自身の経験からも、このギャップを理解しないままでは、せっかくの製品やサービスが国内外の市場で十分に評価されない、そんな場面に何度も出会いました。
日本市場でブランド、ブランディングが誤解される背景
歴史的背景:モノづくり立国の成功体験
日本は戦後、品質の高さやコストパフォーマンスの良さを武器に世界市場で存在感を高めてきました。
「壊れない」「性能が良い」という安心感をメインとして勝負できた時代があったのは事実です。
ただ、その成功体験が長く続いたことで、「ブランド=品質のこと」と考える傾向が残っているように思います。
文化的背景:謙虚さと差別化の回避
日本社会では「出しゃばらない」「和を乱さない」ことが重視されます。そのため、「我々は他社とここが違う」と明確に語ること自体に抵抗を感じる場面があります。
差別化よりも協調を選ぶ文化が、ブランディングを分かりにくくしていると感じます。
組織的背景:経営課題として位置づけられない
多くの企業においてブランディングは「デザイン」「ロゴマーク」といった範囲に閉じ込められがちです。確かにそれも講義のブランディング(VI: Visual Identity、一貫した見え方「Look & Feel」「Tone & Manner」を維持させる)として重要です。
が、本来は経営の意思そのものと結びつけるべきテーマなのに、「装飾的なもの」と誤解されているケースを少なくないと感じます。
言語的背景:「ブランド=ハイブランド」という思い込み
さらに、日本語で「ブランド」「ブランドもの」と聞くと、どうしてもLouis VuittonやGucciのようなラグジュアリーブランドを連想してしまう人が多いのではないでしょうか。
「お金持ちのためのもの」「鼻につく存在」「ロゴに不当に高い価格を払わせるもの」――そんな偏見が根強く残っています。これは和製英語的な側面もあるかもしれません。
実際に経営者の中にも「我が社はああいった高飛車なブランドにはなりたくない」と口にする方もいます。
これは「ブランド=贅沢品、高飛車」という先入観であり、本来の文脈(=顧客との約束や信頼)で話されていないことも多々ある様です。

Luis Vuittonのそのブランドたる背景(職人の技術や品質、ビジネス戦略、マーケティング施策など)を知ると概念も変わってくるかもです。ブランドストーリーの大切さを考えさせられます。
グローバルでのブランディングの意味
私が海外で仕事をしてきた経験から、グローバルにおける「ブランド」には次のような特徴があると感じます。
1. ブランドは信頼残高
顧客が「あなたを選んでも大丈夫」と思える根拠。買う前からすでに信頼を積み重ねている状態。
2. 機能価値と情緒価値の両立
品質や性能は当たり前の基準。その上で「一貫した体験」「物語」「デザイン」が差別化を生みます。
3. 具体例
– Apple:単なる製品性能ではなく「シンプルで美しい生活」を発信している。
– Starbucks:「コーヒー」よりも「第三の居場所」を提供している。
– ユニクロ:低価格や機能性に加えて「LifeWear=日常を支える服」という一貫したストーリーを展開している。
これらの企業は「ロゴを刷新したからブランドが強くなった」のではなく、顧客体験の一貫性を長く積み重ねてきた点に意味があるのだと思います。
誤解から生じる典型的な問題
日本の現場でよく見られる「誤解が引き起こす落とし穴」を挙げると、次のようなものがあります。
– ロゴ刷新や広告に注力しすぎる
ブランド戦略をやったつもりになるが、本質的な信頼構築につながらない。
– 海外市場で存在感が薄まる
差別化のメッセージがなく、どの会社も似た印象に見えてしまう。
– 良い商品が伝わらない
機能や品質に自信があっても、顧客に「どういう存在か」が伝わらず、選ばれにくい。
私自身も、こうした場面を数多く見てきました。共通するのは「ブランド=表面的なもの」と思い込んでしまった結果、肝心の“選ばれる理由”が見えなくなっているという点です。
ブランディングを始めよう
ブランディングを「難しいもの」と感じる方に、まず取り組みやすいステップをいくつか挙げたいと思います。
1. ブランドは経営の意思と捉える
会社として「誰に、何を、どんな想いで届けたいのか」といった企業理念を言語化することから始めます。基本はCEOのビジョンを文書化したものとなります。これを一般的にMVV(Mission, Vision, Value)と呼びます。
会社の『人格』みたいなものです。この会社(人)は、どんな価値観で行動をして、何を大事にしていて、どういった世界観をもっているのか?
その後、このコアになるMVVを全社員で徹底的に共有し合います。会社で行う意思決定は、このMVVに照らし合わせて実施していくことになります。
2. 一貫性を意識する
大々的なブランド広告キャンペーンのみならず、普段使いの名刺、ホームページ、営業トーク、プレゼン資料、Social Mediaへの投稿文面、社員一人一人の行動など、あらゆる顧客接点で一貫したメッセージを伝えられているか?棚卸しをすることで様々な発見があります。
自分で思っていた自社ブランドの人格と、他人から見られていたそれが異なっていることがあるかもしれません。

会社も個人に置き換えると分かりやすいです。自分ではボケキャラでやってきたツモリなのに、友達からは真面目キャラと見られてた!え?まじ?😱みたいな・・・
このギャップを早く認知し、それを補正する、あるいは強調する、などで、ブランドキャラクターに一貫性を持たせ、確固たるもの、強化していくことが重要です。
3. 情緒的価値を設計する
顧客に「安心」「誇り」「共感」「楽しさ」など、どんな感情を感じてもらいたいのかを明確にしましょう。
商品を買ってもらって終わりではなく、顧客は購入後の体験が真のブランドとの接点となる。ここでお客様の心にどんなエモーションが植え付けられるか?植え続けられるか?が、LTV(Life Time Value)の分かれ道。
これは大企業だけでなく、中小企業や地域ビジネスでも有効だと考えています。むしろ小さな会社こそ、独自の物語を明確にすれば、他にはない強みとして認識されやすいのです。
まとめ
日本人がブランディングを誤解してしまう背景には、歴史・文化・言語的な要因が複雑に絡んでいると感じます。
しかし、その誤解を解いて「ブランド=顧客との約束」と再定義できれば、規模の大小を問わず、ビジネスの可能性は大きく広がります。
次回は、さらに一歩踏み込み「ブランディングとマーケティングの違い」について掘り下げてみたいと思います。
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