【書評】『ビジョナリー・カンパニー』に学ぶ、地方中小企業が世界で通用する「ブレない経営軸(Purpose)」の作り方

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目の前の業務に追われ、「自社らしさ」を見失っていませんか?

日々、目の前の売上や目まぐるしい業務に追われ、「会社の将来に向けた仕組み作りにまで手が回らない」と悩む経営者や管理職の方は少なくありません。

特に、海外展開や新規事業などの新しい挑戦を急ぐあまり、市場の波に翻弄され、「自社らしさ(アイデンティティ)」を見失いそうになる瞬間もあるのではないでしょうか。

グローバルマーケティングやブランディングの現場で長くに渡り身を置いてきた私自身も、かつて欧米での駐在中、激しい市場競争の中で組織の判断がブレ、激しい葛藤を経験したことがあります。

そんな時、私をビジネスの原点に引き戻し、「世界で貢献するためのブレない経営軸」を授けてくれた一冊のバイブルがあります。それが、ジェームズ・C・コリンズの名著『ビジョナリー・カンパニー ― 時代を超える生存の原則』です。

本書の中で、利益以上に「Purpose(社会的存在意義)」を貫いたグローバル製薬企業(Merck社)のエピソードが登場します。彼らは「利益よりも人命を優先する」という理念のもと、戦後の日本へ特効薬を無償提供し、多くの命を救いました。

私が現在ブランディングを統括している企業も、まさにそのMerck社の強い理念に命を救われた創業者が、強い想いと志を原点として立ち上げた会社なのです。業種こそ全く違えど、私たちは今もそのぶれなき志を「北極星」として世界中でビジネスを展開しています。

時代を超えて生き残る企業(ビジョナリー・カンパニー)と、そうでない企業の差はどこにあるのか?

今回は、地方から世界を目指す中小企業の経営者、そして偉大な創業者の跡を継いだ「二代目リーダー」にこそ知ってほしい本書の核心について、私の実務での「生々しい危機と逆転劇」を交えて解説します。

「時を告げる人」ではなく「時計をつくる人」になれ

本書の一番のメッセージは、「優れたアイディアやカリスマ的リーダー(時を告げる人)に頼るな。リーダーがいなくなっても永続する組織の仕組み(時計)をつくれ」ということです。

日本の地方中小企業には、素晴らしい技術や、創業者自身の強力なトップダウンの力(時を告げる力)を持つ会社が数多くあります。しかし、今まさに多くの企業が直面しているのが、「創業者の跡を継いだ二代目CEO(後継者)の苦悩」であると聞くことが増えました。

カリスマだった創業者の「勘」や「背中」だけで回っていた組織を引き継いだ二代目リーダーは、「先代のやり方を踏襲すべきか、自分の色を出すべきか」「なぜ先代のように組織が自分の思い通りに動かないのか」という深い孤独とプレッシャーに直面するといいます。カリスマという「時を告げる人」がいなくなった途端、組織の羅針盤がブレてしまうのだと思います。

だからこそ、後継者であるリーダーが取り組むべきは、先代の真似をすることではなく、「先代が大切にしていたDNA(理念)を言語化し、自分がその場にいなくても全社員が迷わず同じ判断を下せる『組織の仕組み(=時計)』へとアップデートすること」なのです。

では、その「時計」は、変化の激しい現場でどのように機能するのでしょうか。私が実際に直面した、グローバル・ブランディングの最前線での事例をお話しします。

「ORの抑圧」を排し、「ANDの才能」を活かせ

本書が明かすビジョナリー・カンパニー共通の特異性は、「基本理念を維持すること」と「凄まじい進歩を促すこと」という、一見矛盾する2つを高い次元で両立(AND)させている点にあります。

多くの企業は、「理念を守るか、目の前の利益(あるいは世間の評価)を追うか」という「二者択一(OR)の抑圧」に囚われがちです。しかし、本物の企業は違います。

【実例】海外での社会的ムーブメントと、企業の「真の誠実さ」

数年前、コロナ禍の混乱の最中、米国で非常に激しい社会的ムーブメント(人種差別抗議運動など)が勃発しました。この時、世界中の多くの企業が「批判を恐れ、世間に同調する」という目的で、SNS上に一斉に表面的な支持を示す特定のメッセージや画像を投稿する傾向にありました。

私のマーケティングチーム内でも、激しい議論が交わされました。 「他社と同じように、すぐに同調を示すポスティングをすべきか?」 しかし、私たちは自社のPurpose(北極星)に立ち返り、こう自問したのです。

「それは表面上だけのポーズではないか?本当に課題を理解し、心から相手をリスペクト(尊重)した行動と言えるだろうか?」

本質的な対話と行動を選択した私たちは、表面的な同調をあえて行いませんでした。その結果、一時期は世間から「この会社は社会的課題に無関心なのか」と一定のバッシングを受けることになります。

しかもこの時はCovid19の真っ最中。私たちは対面(Face to Face)で集まることが一切できない状態でした。私はロサンゼルスのアパートの一室から、他のメンバーもそれぞれの自宅から、すべてのやり取りをオンラインと電話だけで行うという極限の環境です。

関係者合計30人を超える大規模なプロジェクトでありながら、お互いに一度も直接顔を合わせることなく、緊迫した空気の中で本番に向けて徹底的な準備を進めました。ビジネスの現場としては、非常に張り詰めた、胃の痛むような修羅場でした。

しかし、私たちはブレませんでした。沈黙していたわけではなく、裏側で「真のリスペクト」を形にするための全く新しいアプローチとして、現地の当事者コミュニティと深く繋がり、本質的な課題を語り合う「ライブストリーミング(対話型配信企画)」を形にしようとしていたのです。

一度もリアルで会うことなく、完全リモートで成し遂げたこの企画を世に送り出した瞬間、顧客や視聴者の反応は180度一転しました。

「この企業は、表面的な流行りに乗っかっただけの他社とは違う。問題の本質を理解し、本当に当事者をリスペクトして行動している」

この時に得た信頼は、小手先のマーケティングで得られるものを遥かに凌駕する、強固なブランド資産となりました。「世間に表面的な同調をするか、沈黙するか(OR)」ではなく、「自社の誠実さという理念を守り、同時にこれまでにない革新的な方法(完全リモートでの大規模配信)で社会に貢献する(AND)」を貫いたからこそ、危機を大逆転させることができたのです。

地方企業こそ「北極星」を持とう

「ブランディング」の本質は、ロゴを綺麗にすることでも、流行りのSNSマーケティングを取り入れることでもありません。自社が世界に存在する理由、すなわち「Purpose(北極星)」を愚直に言語化し、仕組み(時計)に落とし込んでいくプロセスそのものです。

カリスマ創業者の想いを継いだ後継者であっても、自社のアイデンティティや「らしさ」を軸にしたブレない経営軸(時計)さえあれば、たとえ海外展開で文化の壁や予期せぬ社会の荒波にぶつかっても、組織が迷うことはありません。

もし今、自社の方向性や、次の一手へのブレを感じているなら、小手先のテクニックに走る前に、ぜひ一度この経営のバイブルをデスクに置いてみてください。時代を超えて生き残るための、本物のヒントがここにあります。

📚 今回ご紹介した経営のバイブル

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