ブランドは広告ではなく「社員の行動」でできている。MVVと組織設計がブランドを決める
ブランディングの現場で長年働いてきた人間として、いまも繰り返し目にする光景があります。
マーケティング部門が丁寧に設計したブランドメッセージが、現場の社員の一言で崩れる瞬間。広告では「革新的な企業」を謳いながら、社内では前例踏襲しか評価されない組織。
こうした「ブランドと現実のズレ」は、決して珍しくありません。
問題の根は、多くの場合、同じところにあります。ブランドを「外に向けて発信するもの」としか捉えていないことです。
顧客がブランドを体験する場所はどこか
ブランドを体験する瞬間は、広告を見るときではありません。実際に商品やサービスに触れるとき、つまり、社員と接するときです。
どんな品質基準を守っているか。顧客にどう対応するか。トラブルが起きたときにどう動くか。
こうした日々の行動の積み重ねが、顧客の中に「このブランドはどういう存在か」という認識を作ります。広告はそれを補強することはできても、代替することはできません。
「お客様第一」を掲げながら顧客を欺いた組織:ビッグモーター事件が示したこと
ブランドと行動のズレが最悪の形で顕在化した例として、ビッグモーターの事件は記憶に新しいでしょう。
同社が掲げていたのは「お客様第一」「信頼」「安心・安全なカーライフ」という価値観でした。しかし実態は、組織的な保険金の不正請求でした。
このとき顧客が感じた不安は、単純な「悪意への怒り」だけではなかったと思います。より深刻だったのは、価値判断の基準が組織の中に存在していなかったという事実です。MVVが現場の意思決定の抑止力として機能していなかった。掲げられた言葉と、日々の行動を方向づける仕組みが、完全に切り離されていたのです。
ブランドへの不信は、不正そのものより、「この会社には拠り所となる価値観がない」という認識から生まれます。
悪意がなくても、ズレは起きる:スターバックスのケース
意図的な不正がなくても、理念と行動のズレはブランドを傷つけます。
スターバックスは「環境への責任」「サステナブルな経営」を重要な価値観として掲げてきた企業です。しかしかつて、CEOが頻繁にプライベートジェットで移動していることが明らかになり、社会的な批判を受けました。
不正ではありません。しかし顧客や社員の目には、企業が語る価値観とトップが体現する行動の矛盾として映りました。スターバックスほどのブランド企業でさえ、こうした「姿勢のズレ」は顧客をConfuseさせます。
ブランドとは発信する言葉ではなく、組織のあらゆる階層で体現される行動の総体です。
広告で多様性を謳い、現場は同質性で埋まる
悪意も、目立ったスキャンダルもない。それでもブランドと現実のズレは、静かに積み重なります。
アメリカ駐在中に、採用広告でダイバーシティを全面に打ち出しながら、実際の職場は驚くほど同質な人員構成だった企業を間近で見たことがあります。外向けのメッセージと、社員が毎日目にする現実が乖離していた。発信と実態のギャップは、まず社員を冷まし、やがて顧客にも見透かされます。
Valueは「飾り」か「設計図」か
3つの事例に共通しているのは、Valueが「組織の外側に向けたメッセージ」として機能していたことです。内側の行動を方向づける「設計図」にはなっていなかった。
多くの企業がMission・Vision・Valueを掲げています。しかし現場で機能しているValueは、驚くほど少ないのが現実です。
Valueが機能しない最大の理由は、評価制度と連動していないことです。
「挑戦」を掲げながら、失敗した社員が評価されない組織では、社員は挑戦しません。「顧客第一」を掲げながら、売上数字だけで評価される組織では、社員は顧客より数字を見ます。
企業文化はスローガンではなく、評価の仕組みによって形成されます。ブランディング担当者や経営者がここに無関心であれば、どれだけ優れたクリエイティブを作っても、組織の外側に貼り付けたラベルにしかなりません。
ブランドとは、組織が何を「良し」とするかの結果として、社会に現れるものです。
ブランディングは人事と組む必要がある
「それは人事の仕事だ」と感じた方がいるとしたら、それ自体がブランディングの限界を示しています。
ブランドを内側から作るのは、人事制度です。どんな人を採用するか。どんな行動を評価するか。どんな価値観を組織として称賛するか・・・。これらはすべて人事の領域でありながら、ブランドの根幹でもあります。
中小企業では、この人事の設計を経営者自身が担っていることがほとんどです。言い換えれば、経営者こそがブランドの最大の設計者だということです。
私自身、グローバル企業でブランド戦略に携わる中で、最も手応えを感じたのは、マーケティング施策ではなく、人事評価とValueの連動設計に踏み込んだときでした。組織の行動が変わると、顧客体験が変わります。顧客体験が変わると、ブランドの認知が変わります。その変化の順序は、広告から始まりません。
ブランドは「人の集まりの結晶」
ブランドは広告やロゴから生まれるものではありません。
企業文化があり、その文化を体現する社員がいて、その行動が顧客体験を作ります。その積み重ねが、社会の中でブランドとして認識されていきます。
マーケティング部門の仕事は、その体験を「見える化」し、「言語化」し、「一貫させる」ことです。しかしその土台となる行動と文化は、組織の設計から生まれます。
ブランディングを本気でやるなら、組織の内側に踏み込む覚悟が必要です。
価値観と行動がブランドになる
企業で「ブランド」という言葉が語られるとき、多くの場合、議論はロゴや広告、デザインといった外向きの要素から始まります。確かにそれらはブランドを表現する重要な手段ですが、本質的な意味でブランドを作るものではありません。
ブランドを本当に作っているのは、企業で働く社員一人ひとりの日々の行動です。
顧客がブランドを体験する瞬間は、広告を見るときではなく、実際に商品やサービスに触れるときです。そしてその体験を作っているのは、企業の中で働く社員です。
どんな品質基準を守るのか。
顧客にどのように対応するのか。
どんな判断を下すのか。
こうした日々の判断や行動の積み重ねが、ブランドとして社会に認識されていきます。
つまりブランドとは、広告やメッセージではなく、社員の行動の総体なのです。

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